「封真さんとアザゼルさんが失格かあ・・・どうしよう、新しいボールも見つけないとだけど、はどぽんが何処にいったのか・・・。」
クルルはため息をついた。
味方と合流した方がいいのは分かっているのだが、ハンスと2人きりになるぐらいならこのまま1人で逃げたほうが身の安全の気がしてならない。
だがハンスの強運とクルルに対する嗅覚でそれができる筈も無く、
「クゥールゥールゥーーーーー!」
早速ハンスが屋根の上からクルルを見つけ、その勢いのまま降ってくる。
「ギャー!?」
クルルが持っていた盾をハンスに投げつける。
いつものフライパンだと思っていたのかまともに食らって横に吹っ飛んだハンスだが、その先の地面に突然穴が開いて中から出てきた人物とまともにぶつかった。
「ぐはっ!」
地面から出てきたのはHadoramだった。
「はどぽん、何であんなところから?」
「ふぃりすさんに聞いてください・・・・」
その一言で全てを察したらしいクルルが「お疲れ様」と声を掛ける。
「お、メールじゃねぇか?」
ハンスに言われクルルとHadoramもメールをチェックする。
「えーと、これから15分間、失格になった仲間を助け出せるチャンス。セビリア造船所前と商人ギルド前にいる衛兵からそれぞれ手形を受け取り、教会内にいる司祭に渡せば仲間を一人だけ復活させることができます。ただし手形集められるのは姫のみ。ご健闘をお祈りいたします・・・だって。」
クルルのチームは戦力的に言うとハンスがいる時点で無理してまで仲間を助け出す必要は無いのだが、
「今のままじゃはどぽんがいなくなった時点で私が終わりです!どんなに危険でも手形集めさせてっ!」
クルルの必死の訴えに、Hadoramは頷くしかなかった。
「えっと、それじゃ新たなボールを集めつつ手形を取りにいきましょうか。」
「ボールってのはこれか?」
ハンスが両手に金色のボールを持っている。
「そこの屋根の上に引っかかってたんだがな。」
「ハンスさんじゃなければ見つからない場所ですね・・・」
しかしこのボールゲットは黄色チームにとっての幸運である事には間違いが無かった。
「味方復帰か・・・どうするかな。」
「姐御様の護衛としての役割ならいらない気もしますけどね。」
ドクターMの言う事ももっともなのだが、ジャバウォックは何か考えるところがあるらしく、しばらくの間悩んでいた。
「ちと考えていることがあってな、是非黒い嬢ちゃんを復帰させたいんだ。」
「今いないのは封真さんだけだど・・・」
椿の言葉に他全員が声を揃えて言った。
「絶対寝てる。」
「あ、でも護衛を助けにくる他チームの姫を狙うって手も・・・・」
そこまで言ってからハティは赤チームの姫を思い出したらしい。
「大人しくボール集めよう・・・」
アレクシオの提案に全員がうんうんと頷いた。
「なんだ、手形を手に入れるのに衛兵と戦うとかそういうのは無いんだな。」
(何故そんなに残念そうなんですか・・・)
ドーマウスが首を振る。
「まあ、今回はチーム戦のゲームだしな、仕方が無いか。」
そういいながらもあっさりと手形を2枚集めて教会へと向かう。
「手形を持ってきたぞ」
司祭に手形を無造作に渡すと「どなたを復活させますか?」と聞いてきた。
「ミゼットさんをお願いします。」
ドクターMの言葉と共に奥の扉が開かれ、ミゼットが呼び出されてきた。
ドアの隙間から見えるトシェルに
「すまん、今回は嬢ちゃんが必要なんだ、ゆっくり休んでいてくれ」
とジャバウォックが声を掛けると、トシェルが「頑張ってください」と手を振る。
「うちが必要・・・って姐御何か作戦でもあるのー?」
ミゼットが首をかしげながら聞いてくる。
「まあ、その場面にならないと分からんが・・・」
ジャバウォックはミゼットに耳打ちすると「頼めるか?」と聞き返した。
「おっけー!その場面がきたら頑張るよ!」
ミゼットの元気のいい返事に笑うと、「行くか」と促してジャバウォック達は教会を後にした。
「・・・姐御、行ったね。」
教会の影からこっそりと覗いていたクルルは、ジャバウォック達の姿が見えなくなると教会の中に入った。
手形を集める場面からずっとジャバウォックの少し後を回り、危険を回避していたのだ。
司祭に手形を渡し「どなたを復活させますか?」と聞かれてクルルは「うーん」と迷った。
アザゼルかFalchionかどっちにするかを決めていなかったのだ。
しかし開けられたドアから2人の姿を見ると、あっさりと「ふぁるp・・・Falchionで」と伝えた。
「クルルさん、ごめんねー。」
「いいよ、ゆっくりしててー」
アザゼルの膝にはぐっすりと眠り込む封真の頭がのっていた。
「復活したのはミゼットさんとふぁるぽんかー・・・あれ?またメールが入った。」
ふぃりすが新たしいメールを開いて読み上げる。
「15分経ちましたのでメンバー復活は終了となります。入れ替わりで貴方方に新たな敵が送り込まれます・・・?」
同じ頃同じメールをジャバウォックも読んでいた。
「新たな敵は甲冑騎士2人。彼らが持っている武器の先に付いているボールに当たっても失格となります。甲冑騎士は目に付いたメンバーに無差別に襲い掛かりますので、気をつけてください。なお甲冑騎士を攻撃することは禁止とさせていただきます・・・か。残念だ、先に念を押されたか。」
本当に残念そうに呟くジャバウォックにドクターMがボールを差し出す。
「見つけました。」
「流石だな。これで3つ目か・・・十分な数が集まったな。」
「ついでなんですが、見つけてはいけないものも見つけてしまいました。」
ドクターMの言葉に「ん?」と視線の先に目をやると、そこには甲冑姿の騎士がフレイルのような武器を持って立っている。
ジャバウォック達に気が付いたらしくフレイルを振り回して近づいてくる。
「私が引き付けるから全員しばらく隠れていろ。十分な距離を保って付いてくるようにしてくれ。」
そう言うとボールを3人に渡して甲冑騎士の前へと向かっていった。
「さて・・・こちらから攻撃を仕掛けるわけにいかんしな、どうするか・・・。」
慌てた様子も無く、フレイルをかわす。
武器の先が地面に当たる音を聞いて何か気が付いたらしい。
「当然だろうが先の部分は鉄製ではないか・・・しかし通常のボールよりもかなり小さいのに音が重い気がするな。審判!甲冑騎士の武器の先についているのはなんだ?」
「布製のボールです。ただし中には砂が入っておりますので、通常のボールよりも重量がありますので、お気をつけください。」
副官審判の説明にジャバウォックは「有難う」と礼を言った。
「という事は、現在最大の攻撃力があるという武器な訳だな・・・面白い。」
ジャバウォックの顔に笑みが浮かんだ。
甲冑騎士を連れたまま、ジャバウォックは広場を抜け商業地区へと入っていった。
距離を一定に保ちつつ辺りを見回していると、目の端に見覚えのある姿が入ってきた。
青チーム全員が商館地区のほうに向かって歩いていく姿なのだが、ハティが列の一番後ろで他のメンバーより少し離れていた。
どうやらボールの入った宝箱を見つけたのが原因らしい。
手に持っていたボールを前を歩いている椿に投げ渡して、自分は宝箱の中からボールを取り出していた。
「よし・・・あれで試してみるか。」
「げ・・・姐御!?」
ハティの目に真っ直ぐに走ってくるジャバウォックの姿が目に入ってきた。
だが両手にはボールを持っている様子は無く、自分の手元にはボールがある。
ハティは攻撃するべきかこのまま逃げるべきか一瞬迷った。
その迷いが致命的だった。
「おう、弟殿!耐えろよ。」
目の前まで迫ったジャバウォックの姿が消えたかと思った途端、その後ろにいた甲冑騎士の姿が初めて目に入った。
そうして横一線に振りかざされたフレイルの先も。
ジャバウォックのふくらはぎのあたりを狙って打ち込まれたフレイルは、そのまま綺麗にハティの脛へと吸い込まれるように打ち込まれた。
副官審判の後日談によるとハティの断末魔は交易所の辺りまで響いたらしい。
「弁慶の泣きどころ、というヤツだな。」
甲冑騎士を十分に引き付けて素早くハティの背後に回り込んだジャバウォックは、倒れこむハティの向こうにいる甲冑騎士に目をやった。
どうやら今度は椿達に目をつけたらしく、そっちに向かおうとしたが、その前にジャバウォックが再び立ちふさがる。
「対ハンスにこれ以上いい武器は無いからな・・・もらっていくぞ。」
そう言って甲冑騎士を引き付けて、広場のほうへと走っていった。
「・・・甲冑騎士を武器と考えるのって企画した人の思惑外だと思うんだよね。」
「てか最凶の組み合わせだと思う・・・・。」
悶絶したままのハティを見下ろしてふぃりすと椿がため息をついた。
「おう、あれが甲冑騎士か!」
「ハンスさん・・・念のため言っておきますけど、攻撃しちゃダメですよ。」
Hadoramが注意したがハンスの中でなにやら盛り上がってしまったらしく、「おう!」とだけ返事をすると、勝手に甲冑騎士のほうに躍り出て行った。
「フゥゥゥゥゥゥ!きやがれ!」
甲冑騎士に挑発する台詞を吐くと、そのまま騎士を連れて広場のほうへと駆けていった。
「見つけたぞ!」
広場に入ったハンスとジャバウォックが同時に叫んだ。
お互いに真っ直ぐ衝突しそうな勢いで猛進していく。
互いの腕が触れるかもしれない距離まで近づいた刹那、ハンスは荷車の上に、ジャバウォックは植え込みの端へと飛んだ。
勢いの付いた甲冑騎士が急に止まれるはずも無く、結果重い甲冑同士で衝突してしまった。
倒れこんだ甲冑騎士の元に副官審判が慌てた様子で飛んでいく。
「えーと・・・甲冑騎士が2人とも気絶してしまいましたので、このまま甲冑騎士は戦線離脱とします。」
その台詞にジャバウォックがにやりと笑う。
「相打ちとは残念だな。」
「そりゃこっちの台詞だゼ」
その場面をジャバウォックの台詞が気になって追ってきた青チーム、そしてハンスを追いかけてきた黄色チーム、ジャバウォックの指示で甲冑騎士の少し後ろを追ってきていた赤チームと全員が広場へと集まる結果となった。
膠着した状態で最初に動いたのはドクターMだった。
「姐御様、渡しておきますね。後はよろしくお願いします。」
そう言ってボールを2個、ジャバウォックの方に投げた。
同じくしてHadoramもハンスにボールを1個投げ渡す。
椿とふぃりすは手元に2個あったボールの内1個をアレクシオに渡すと、自分達は1個のボールを互いにパスしあってドクターMの方へと走っていった。
降参するように両手を挙げたドクターMにボールを当てると、跳ね返って転がってきたボールをまた拾い上げる。
「げ!」と声を上げたのはミゼットだ。
ドクターMから少し離れた場所に立っていて、ボールを拾った椿と目が合ってしまったのだ。
「ニゲロー!」とわざとらしいぐらい大声で言って広場を走り出す。
当然追う2人だが、最近鍛えているだけあって、早々簡単には追いつかないらしい。
広場の真ん中では相変わらずジャバウォックとハンスが睨み合っている。
「お前が相手だと遠慮せずにやれるのが嬉しいな。」
「照れる」
褒めとらん、と言うジャバウォックの言葉が合図のように2人が同時に走り始めた。
ハンスを追いながらジャバウォックは持っているボールのひとつを、勢いをつけてハンスの方へと投げた。
「その程度のスピードならいくらでもかわすゼ!」
そう言ってハンスが身を翻す。
「お前が狙いじゃないぞ。」
ジャバウォックの投げた球はそのままハンスの後方にいたクルルとHadoramの方へと飛んでいく。
受け止められるような勢いじゃない、とHadoramが諦めて自分が犠牲になろうと両手を盾にしてクルルの前に立ったが、その前にFalchionが腕を出した。
Falchionの腕に当たり、ボールは地面へと落ちる。
「いてて・・・あんな遠くから投げた球なのに結構痛かったな。」
「大丈夫か?」
自分をかばって・・・とHadoramが言いかけると、その言葉をFalchionがさえぎった。
「このまま生き残ってると、ハンスさんかジャバウォックさんのどっちかの球を間近で体感する羽目になりそうだし。早めに降りたほうがいいかなって。じゃあ頑張ってね。」
Falchionの台詞にHadoramは地獄に取り残されたような気分になって、がっくりと膝を付いた。
「ジャヴァ!勝負だ!」
ハンスのボールが唸りを上げて飛んでいく。
しかも途中にあった交易所の酒樽やら果物かごを全て全滅させ、それでも勢い止まらずジャバウォックに向かっていたが、ぎりぎりでかわされたボールは最後に商館管理局の壁を崩して破裂することでやっと止まった。
「チィ、外れたか」
そう言ったハンスの後頭部に金色のボールがめり込んだ。
「お前は加減と言う言葉を知らんのかぁぁぁぁ!」
ボールを投げたのはアレクシオだった。
「姐御、ごめーん。やられちゃったー!」
どうやらふぃりすと椿の2人に追いつかれたらしいミゼットがボールをぶつけられて降参のポーズをとっている。
「おう、十分だ!嬢ちゃんのお陰で助かったぞ。」
何のことだろう、とふぃりすたちが考えた時には既に遅かった。
アレクシオが背中に何かが当たる感触がして振り向くと、そこにはボールを持ったドーマウスが立っていた。
大げさに目立つことでドーマウスから目を逸らす役、と言うのがジャバウォックに頼まれた事だった。
これはトシェルではできない、騒いで目立てるミゼットにこそできる役回りだ。
「・・・ドーマウス、いたんだっけ。」
アレクシオの台詞にドーマウスが苦笑いした。
「そっか、ドーちゃんまだ失格になってなかったっけ。」
「ミゼットさんに気を取られてすっかりワスレテタヤ・・・」
ふぃりすと椿に言われて、ドーマウスはため息を付きながら言った。
(いつもの事ですから・・・)
「青チーム!姫撃破によりチームごと失格となります。」
その台詞と共に最初に動いたのはHadoramだった。
途中落ちていたボールを拾い、即ドーマウスに向かって投げる。
たとえ小さくても相手の戦力は削っておきたかったからだ。
当然ドーマウスに避けれるはずも無く、肩にボールが当たるとドーマウスは降参と言わんばかりに両手を上げた。
「さて、これが最後の勝負のようだな・・・」
ジャバウォックが腕を鳴らしてHadoramのほうを向く。
「え、えーと・・・手加減してくれません・・・よね。」
「男相手に手加減する気は無い・・・が、まあ壁を壊さない程度の威力には抑えておこう。」
そう言って投げたボールは弧を描く様子も殆ど無く、真っ直ぐにHadoramの鳩尾に食い込んだ。
叫びも発せずにHadoramが倒れる。
ジャバウォックは転がってきたボールを拾うとクルルの前に立った。
「さて・・・困ったな。」
ジャバウォックがポツリと呟く。
クルル相手にどうやってボールをぶつけたものか。
迷っているとクルルが1歩2歩と後ずさる。
その足元に先刻Hadoramが落としたボールが転がっていたのに気が付かなかったらしい。
「あ」と短い一言を発してボールにつまずいて倒れそうになる。
「おっと」
間一髪地面に倒れこむ前にジャバウォックが支えたが、そこで笛の音が鳴り響いた。
「赤チーム、姫撃破により失格!黄色チームの優勝です!」
副官審判の言葉にジャバウォックが足元を見ると、クルルがつまづいた勢いで蹴り上げたボールがつま先に跳ね返って転がっていた。
「フフ・・・やはり一番強いのはコックの嬢ちゃんだな!」
「えええええ?」
「ダネー!クルルさんが一番か!」
椿が手を叩きながら寄ってくる。
「クルルさん最強伝説・・・・っと。」
ふぃりすはなにやらメモに書いていた。
「ええええ!?何で?」
違う、と首を振るクルルにハンスが叫ぶ。
「クルルはいつだって一番だゼ!」
その台詞にジャバウォックが「そうだな」と賛同した。
「そんな事はないよ、強さって言ったら姐御とかハンスのほうが強いよ!」
「強さと言うのは腕力だけでは仕方が無いんだ」
ジャバウォックは笑って言った。
「現にハンスも私も嬢ちゃんには敵わん、と言うのがいい証拠じゃないか!」
その台詞に全員が笑って、クルルに拍手を送った。
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